人が人を好きになることは止められない
人が人を好きになる。
それは止められないこと。
上記記事を読んで思い出したことがある。“おっさん”のことだ。
おっさんとは私が勝手に呼んでいる人で、もうずいぶん長い付き合いだ。生まれたときからだから。単に従兄弟ってだけです。少々年が離れている彼を私はずっとおにいちゃんと呼んでいた。だがあるとき、おにいちゃんよりおっさんといえ、といわれた。30そこそこなのにおっさんかよ、と悪態をついても、まあいいじゃないか、と笑っているような大人な人だ。あれから10年過ぎたなあしみじみ。閑話休題。とにかく彼はそういう人です。
おっさんは、呼び名どおりのもっさりしたオヤジだ。もともとそういう要素があったが、近年とみに加速している。だからこそ、この間ウチへ遊びに来て二人で飲んでるときにでた、俺、浮気しちゃってさ…の言葉に非常に驚いてしまったわけで。
思わず風俗?と聞きそうになったがいくらなんでもそれは失礼だなと、と逡巡していると「そっちじゃないぞ」と見透かされていた。
「中学の同窓会があってね…」とおっさんはボツボツと話し出した。
そのコは幼なじみで、俺の初恋の相手でね。
程度のよくない公立の中学だけどさ、彼女は美人で成績が優秀だったよ。 なんと無くあか抜けていたのは、年の離れたお姉さんがいたその影響だったかもしれないな。卒業アルバムを見せるとたいてい美人だねえというよ。俺は運動会系の人間で、まあ知ってのとおりもてるような容姿や性格でもねえし。どちらかというと乱暴モノだったけど、、筋を通してむやみな乱暴はしなかった。全然違うのに、 そんな彼女がなぜ俺をかまうのかはわからなかった。彼女にとっての俺は、ただの友達なのかどうか未だにわからん。
20歳をすぎるまでつかず離れずの関係で…まあその“友達の一人の関係”をくずさずに付き合っていたよ。俺は大学に進学するような成績じゃないだろ?高校でてからはお父さん(私の父)と一緒に仕事してたし。
最後にあったのはいつかなあ…とにかく彼女の家だった。実家にあがってなぜかご両親の前で彼女の作った料理なんかを食べたよ。その場には彼女の彼氏もいたなあ。 その後も何度か飲みに行く誘いなどを受けたけど、俺は行かなかった。 失恋じゃなくて、なんだろこう…。自分に彼女に対しての自信みたいなモンがなかったからかなあ。さっきもいったけど、全然違っていたし。俺ら。
その後は友人から彼女の近況をその都度聞かされてた。
で、だ。この前、中学校の同窓会があったんだよ。
俺は地元だから、そのまんま帰ればいいんだけど、なぜかなあ。会場のホテルに部屋を借りた。なんでかな。友達と久しぶりにゆっくり話ができるかもくらい気持ちがあったんだと思う。ヘンな意味じゃないよ。
会場につくと彼女がいた。
若いときとはあまり変わらない容姿は独特だからすぐにわかった。 俺は、彼女に近づくこともせず、他の友人たちと話をしてたよ。だけど、まあガキ時分の悪行がつぎつぎと暴露され居心地の悪かったな。会が進み、俺は飲めないのに酒飲んじゃって。まわり始めたとき隣りに彼女が座ったんだな。うん。
「ひさしぶり」
そんなたわいない挨拶をしてな。
彼女がつけているのか香水の甘い香りがしてな。
俺と彼女の周りは誰もいなくなったときだ。彼女が「なぜあのとき来なかったの?」と聞いてきたのは。
(あの時)彼女が最後に俺を誘ってくれたときのこと。ただ友達たちと飲みに行く誘いをうけたときのこと。
9月の連休だった。
ほら、あの年だよ、ウチの母が危篤で実家にいたとき。テレビで…あの、細川たかしが「浪花節だよ人生は」を歌っていたのを憶えてる。そんな訳で誘いには乗らなかったけどさ、その時は理由は話さなかった。返事をしようとしたとき他の友達も彼女の周りに集まりだして答えそびれちゃってね。彼女は上のクラスの高校へ行った人間だから、周りに集まるのはある程度成功したヤツだな。 話は盛り上がってたけど…俺はなんかハズされてる感じがしてなあ。
終わると2次会に行くという話になったけど、俺は行く気になれなくて、用事があるからっていって。ホテルの部屋に行こうとエレベーターホールで待ってたら、彼女がきたんだ。俺がいてびっくりしたみたい。「2次会にいかないの?」と俺が聞いたら 「子供の迎えにいかないと、あなたも帰るの?」「うん」ジャケットの胸にあるホテルの鍵が妙に重くてなあ。下の階に向かうエレベータに一緒にのったよ。ドキドキしながら「実は部屋を借りているんだ。よかったら二人で話しをしない?」と聞いてみたりして。彼女は表情もかえず、一瞬考え「やめとく」 「そうか」エレベーターがついて彼女が「じゃあ」と降りるとき、思わずその手を握っちゃったんだ、俺。彼女は降りれずにドアがしまった。
再度ドアを彼女が開けたけど、俺、 「少しだけ」なんて馬鹿なこといってんな、と思った、けど。
彼女は困ったふうでしたが、「じゃあ」と残ったよ。
彼女が先に部屋へ入った。
ツインの部屋からは海がみえる。日が落ちるまでまだ間があった。
海が光ってて…キレイだった。彼女は窓の外をながめてて。俺が声をかけたら、振り返った彼女の顔は幼いときの彼女のようだった。修学旅行のとき俺の横の席で寝息をたてていた彼女の顔を突然思い出したよ。
まあ後は察してくれや、とおっさんは私が作った何杯目かの水割り(飲めないので濃度とかはテキトウ)を飲み干した。ちょっと薄め(またテキトウ)につくってお代わりをだす。
今までの胸の奥にひかっかていた物が無くなっていたように感じたよ。服着て部屋を出てくとき、彼女はにっこり笑って「じゃあ」といって。緑色のスカートがなんでか今でもこう…はっきりと覚えてる。 (あの時)の話しの理由はいわなかった。もう必要ないだろうし。
浮気と言えば浮気だろうな。単にその…なんだ、まあソッチの欲求が出ただけかもしれんし。ガキのとき、やり残したことを(変な意味じゃないぞとおっさんは顔をしかめた)もう一度やりたかったのかもしれん。言い訳だろうけどな。ショセン。
おっさんはなにか少しほっとしたような顔をしていた。アタシはなにもいえなかった。言えば大事な思い出が壊してしまうような気がして。すまんなこんな話して、と赤ら顔をテカらせておっさんが照れる。いいのよ、とアタシは生真面目な顔をわざとつくって、冷えたお水をだしてみた。おっさんのオクサン、その顔を思い出す。アタシは彼女も好きだ。ふと思いたって、アタシなら言わないだろうと思ってずるいなあと、厳しい顔をしてみた。いやいやいや、と手を何度も振りながら、ごめんよごめんよ、とおっさんはいう。いいよ、おっさん。たまにはそんな日もあるさ。
おっさんの行為がいいか悪いか、それは私にはわからない。ただそういうときがあっても仕方ない、ということはわかる。たまに寄り道してしまうことだってあるのだ。過ぎ去った日を追体験しても、その場所に戻ることができないことを、私はもう、知ってる。
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